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2019.01.03

ワンコイン

 「ワンコイン」という言い方がいつから始まったかわからないが、「硬貨1枚(ワンコイン)ですむ買い物」という感覚はあった。その「ワンコイン」が、子供の頃は10円で、すぐに100円になったわけだ。500円玉が登場するのは1982年で、当時は高額硬貨の感じがあった。まだ大学生だったが、タバコ屋で500円を出すと、ほかのお金で払えと言われたことがある。怪しまれたらしい。
 まだバブルが始まる前、会社の近所のソバ屋の「昼の天丼」が500円だった。500円の天丼は、とても高くはないが、安いとも言えなかった。大きな海老がのっているので結構リーズナブルだったが、すぐに売り切れた。だからいつも食べられない。ある日、11時半に会社を抜け出し、ソバ屋に行った。今日こそは「昼の天丼」と10時半から握りしめていた500円玉はすでに汗ばんでいる。
 ソバ屋に入るとほぼ満席。相席で座る。「何にしますか」とおばちゃんが聞く。当然、「天丼」と注文しようとしたその
時、隣の席にカツ丼が運ばれてきた。それを見た瞬間に、大きな声で「カツ丼」と発音してしまった。このようにあまりにキッパリと間違えたことを言ってしまうと、ふつうの人は訂正できなくなるものである。少なくとも、僕はそういう人間である。平然と前言を翻すことができなかったら、大物になれない。その日もまた、「昼の天丼」が食べられなかったのである。
 バブルを経てデフレの時代になると、いつの間にかワンコインと言えば500円を指すようになった。バブルの頃の若いサラリーマンにとって500円のランチは安く、今、500円のコンビニ弁当は高い方である。平成はデフレの時代だった。

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